時事報道をマップ化する(サトウの切餅訴訟)

今回も時事報道をマップ化してみました。

「切り餅を形崩れしないように焼き上げる切り込みの特許権を侵害されたとして、業界2位の越後製菓(新潟県長岡市)が、業界1位の佐藤食品工業(新潟市)に「サトウの切り餅 パリッとスリット」など5商品の製造差し止めや59億4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、知財高裁の飯村敏明裁判長は22日、製造禁止と約8億円の賠償を命じた。判決確定前でも強制執行が可能になる仮執行も認め、製造装置の廃棄も命じた。」(MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120322/trl12032216030003-n1.htm

この訴訟、昨年9月には佐藤食品工業の特許権侵害を認める中間判決が出され、和解交渉が進められていたようですが、交渉は決裂し、佐藤食品工業には厳しい判決となりました。

判決文と原被告両社のウェブサイトから情報を集めて、1枚のマップにしたのが下記です。同じ新潟県で創業し、創業時期も同時期、ともに成長してきた2社が争っています。

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原告の越後食品(以下、越後)は、訴訟の対象となった特許を、包装餅シェア3位のきむら食品には実施料率0.4%でライセンスしている一方、佐藤食品工業(以下、サトウ)には実施料率4%を要求していたようです。
越後はサトウへはライセンスしないで、サイドスリット入り切餅を独占するものだと思っていましたので、実施料率の交渉をしていたとは意外でした。とはいえ、市場から排除するに等しい、高い実施料率だったのかもしれません。

両社の特許ポートフォリオは対照的でした。越後は高圧加工食品をメインに44件の特許を保有し、毎年十数件の特許出願を継続しています。一方のサトウは6件の特許しか保有しておらず、越後に対する脅威とはなりにくい状況です。

このマップだけでは、越後のコンテキストは推定が非常に難しいです。強いて挙げるならば、流通業者のプライベートブランド獲りがあったと推定できます。納入価格4%のハンディは、かなり越後に有利となるでしょう。実際、セブン&アイの包装切餅は越後製で、売上は数億円に上ると推定できます。
ところが、スーパーの陳列棚の大部分を占めているのはやはり、サイドスリットのなくなった(上記特許権を侵害しない)サトウの切餅です。こうして見る限り、越後は特許で勝ったが事業では勝てなかったと推定せざるをえません。

リッチピクチャ―は「今の状況」を表すには非常に効果的な手法ですが、時系列の反映は苦手です。そこで、時系列マップで経時の情報を補うことにしました。両社の沿革を時系列マップにしたのが下記です。

両社を並べた時系列マップ

時系列マップを参照する限り、無菌包装切餅パックも個別包装切餅もパックごはんも、ことごとくサトウが先行し、越後が追随する形で発売しています。「餅そのものを変えることはできないので、包装の工夫で消費者に訴求していく」とはサトウの佐藤功社長(当時)の弁です。特許こそ出願していませんが、イノベーションを切り拓いてきたという自負がサトウにあったはずです。そしてスーパーの陳列棚はサトウに独占され、越後としては何とか一一矢報いたいと思っていたことでしょう。長年にわたる両社の関係が本件訴訟に影響している可能性はありそうです。

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